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精子と卵子はまず大きさがかなり異なります。卵子の方がはるかに大きいのですが、この大きさの違いは何かというと、栄養をもっているかいないかなのです。配偶子にはDNAのかたちで遺伝情報が含まれているのは当然ですが、それだけではなく生き残っていくための栄養も必要なのです。栄養をたっぷりともった卵子に比べ、精子はほとんど遺伝情報と運動鞭しかもっていません。なぜこのようなふたつのタイプの配偶子かおるのかというと、これも自然淘汰の結果であると考えられます。↑ふたつの戦略 配偶子が次世代を残すためには何か重要でしょうか。ひとつは相手を見つけることです。半分の遺伝子を他の配偶子と合わせなければ次の細胞にはなれません。しかし、たとえ相手を見つけて合体しても、その後生き残っていけないのなら意味はありません。生き残るために栄養を備えておくというのも、配偶子にとっては大事なことです。しかし、これらは両立しません。相手を見つけるために動き回るには身が軽くなければなりませんが、栄養を豊富にもつと動き回るのは困難になります。このふたつの戦略のそれぞれに特化したのが、精子と卵子であると考えられています。精子は身を軽くして相手を見つける機会を増やす方に、一方卵子は栄養をもって生き残る確率を高める方に進化していったのです。 栄養をあまりもたない精子は、つくりだすためのコストがあまりかかりません。ということは、数を多くつくることができるということです。一方、卵子はそれほど多くつくることはできません。ちなみにヒトの男性が一回の射精で出す精液の量は平均三・五ミリリットルで、精液一ミリリットルのなかには五〇〇〇万個の精子が含まれるそうです。ということは一回の射精で一億個以上の精子が出されていることになります。そのときにうまく受精したとしても、受精する精子は一個だけですから、非常に多くの精子が無駄になっているわけです。 一方、女性は生まれたときにI〇〇万個程度の原始卵胞、すなわち卵子のもとになる細胞をもっているのですが、そのすべてが成熟するわけではなく、生殖期間中に成熟するのはわずか四四〇個ほどです。卵子は栄養を豊富にもっているぶん、つくりだすためのコストが高くなり、数が制限されるのです。 このような配偶子の違いが、雄と雌のさまざまな違いに大きく影響しているのです。雄と雌は協力して次世代をつくり、育てていく、というのが、みなさんが抱いているイメージだと思います。しかしここで、自然淘汰の単位は遺伝子であるということを思い出してください。雄も雌も、自分の遺伝子をより多く次世代に伝えるように進化してきているはずです。雄と雌のそれぞれが自然淘汰にさらされるのなら、どのような性質が進化してくるのでしょうか。 精子は栄養をもっていません。ですから、受精の時には精子が卵子に入り込み、卵子が受精卵として分裂していくことになります。雄が自分の遺伝子をより多く残すためには、できるだけ多くの卵子を受精させてやるという戦略が考えられます。そもそも生き残るという方向にではなく、機動性を増すという方向に進化したのですから、その特性を最大限に生かすには、できるだけ多くの相手に出会うことが肝心なのです。一方卵子の方は、いったん受精するとそのまま分裂を繰り返して次世代の個体になっていきます。たとえ数多くの雄から精子をもらったとしても、受精するのはそのなかのたったひとつの精子なのです。雌にとっては、次世代に残す遺伝子の数は自分かどれだけ卵子をつくれるかによっています。ということは、雌にしてみれば量ではなく質を高めた方がいいということになります。すなわち、次世代の生存と繁殖をよりよくしてくれるような遺伝子をもった精子と出会うことが大切だということです。 このような配偶子の性質の違いから、雄はできるだけ多くの雌と配偶機会をもつように進化し、一方雌は多くの雄のなかからできるだけ優秀な遺伝子をもったものを選ぶように進化するだろうと予測されます。雌は無限にいるわけではありませんから、雄どうしは必然的に雌との配偶機会を巡って争うようになります。そうなると、雄どうしの争いに勝てるような性質をもった遺伝子がより多く残っていくことでしょう。これを性淘汰といいます。性淘汰は、自然淘汰の特殊なI例として考えられます。↑性淘汰と集団の形成 先ほど集団の形成の話をしましたが、雄と雌の違いは集団の構成にとっても大きな要因となっています。霊長類の集団には、ゴリラにみられるような雄が一頭で雌が複数の単雄複雌群、マーモセットのような雄が複数で雌が一頭の複雄単雌群、そしてニホンザルやチンパンジーのような雄も雌も複数いる複雄複雌群があります。生物の集団は、繁殖の場としても重要なのです。 配偶の機会を増やせば増やすほど適応度を上げることができる雄に対して、雌は配偶の機会を増やしてもさほど適応度は上がりません。とくに哺乳類の場合は胎内で子どもを育て、出産後も母親からの栄養補給が必要になりますから、雌にとっては雄との配偶よりも食物の方が大事なのです。つまり、雌どうしの食物をめぐる競合がまず基本になると考えられます。食物がどのように分布しているかによって、雌がどれくらい集まるかということが決まります。そこに雌を求めて雄が集まり、今度は雄どうしの雌をめぐる競合が起こります。これらの要因が互いに影響しあった結果、集団の構成が決まっているといわれています。↑ヒトは一夫一妻の動物か 哺乳類のなかでは、ほとんどの種において雄はだか精子を提供するだけで、子育てには参加しないことが知られています。ところが、皆さんもご存じのように、ヒトには結婚という制度があり、長く続く夫婦の絆がみられます。また、父親も直接的、間接的に育児に関わっています。なぜこのようなことがみられるのかについては、ヒトという動物の特殊性を考えなければなりません。 ヒトは脳が非常に大きくなったため、子供の成長に時間と子不ルギーがかかるようになりました。成人の脳が大きいということは新生児の脳もそれなりに大きくなるわけですが、あまり大きくなりすぎると産道を通らなくなるため、大きさには限界があります。そうなると成人並の大きさまでもっていくにはそれなりに時間がかかるわけです。ヒトの場合はこのような事情から、男性も子供へ投資することが必要になります。そこで、男女の長い期間にわたる絆が形成されるようになったのです。 では、ヒトは基本的に一夫一婦制をとる動物なのでしょうか。これについては、現代人の社会制度についての研究と、生理的な面からの研究のふたつがあります。
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